電磁波の伝播-3(屈折)
光の性質としては、例えば屈折、反射、干渉、回折、偏光等が有ります。回折はヤングの二重スリット実験で「光の波動説」を立証することになった、波動光学的性質です。
屈折は望遠鏡やカメラのレンズ、或いは我々の目の働きに関係する機能ですが、考えてみるとそこに中々深い意味を持っていることが分かるし、それによって又より一層、「光とは何か?」の理解が深まる性質です。
光の速度と屈折
■ 屈折に関係する光の性質
光の直進性
光は真空中を、或いは空気や水など同じ媒質中で、全方向に直進します。
太陽は地球に比べ非常に大きく遠い為、太陽からの光は平行光線として地球に降り注ぎます。
光源の強度は光度と呼ばれます。単位はカンデラ。
光度は、光源からの距離の二乗に反比例します。距離が2倍になれば1/4、3倍になれば1/9の光度になります。
光の速度
光(電磁波) は、伝播する為に、特に媒質を必要としません。つまり真空でも伝わります。
真空中を光は、1秒間に299792458メートル(約30万キロメートル)進みます。...と言うか、 「光が真空中を299792458分の1秒の間に進む距離を1mとする」と、現在はメートルの定義がされていますので、まあ当然のことです。
この光速度、299792458メートルは、プランク定数などと共に、自然界における最も基本的な定数です。
屈折
光は伝播途中で媒質が変わると、その境界で進路が変わります。これを屈折といいます。原因は媒質によって光の速度が変わるからです。
屈折の角度は光の波長によって異なり、短波長(高周波)ほど大きくなります。このことはプリズムによる分光現象を見れば分かると思います。
ダイヤモンドは自然界で最大の屈折力を持っていて、分光特性も際立っています。又、人間の手によって最も効果的なカット(ブリリアントカット)を施して有るので、極めてクリアできらびやかな輝きを見せます。
■光の屈折
光が屈折する理由
そもそも光は何故屈折するのでしょうか。
光が屈折する理由は、 光が通過する媒質によって、そのスピードが違ってくるからです。
光は上記したように1秒間に約30万キロメートル進む、と言われます。しかしこれは真空中でのことで、空気中、水の中、或いは硝子の中など、その進路となる媒質によって進むスピードが違います。このことが光の屈折の原因となります。
あまり出来の良い図ではないのですが、下の図で説明しましょう。
上図左は光が空中からガラスに入り、再び空中に出る時の屈折の状態を示したものです。
その理屈を上図右で説明します。
光は「光子」と呼ばれる素粒子の運動だと言われます。(光は粒子と同時に波の性質も持っていますが、今は粒子の運動で考えます)。と言うことで、右上の図は、子供(光子ちゃん)が何人かで手をつないでグラウンドを走り、砂場を斜めに横切り、再びグラウンドに出る場合で考えて見ましょう。
- グラウンドを走っている間はお互い同じスピードで走ります。
- 最初に光子Aが砂場に到着し、順次B、C、Dと砂場に入ります。
-
砂場に入った順に光子たちは、砂に足を取られスピードが落ちます。
その間、まだグラウンドを走っている光子は最初のスピードで走り、結果光子たちの列は進行方向左に向きを変えることになります。 - 光子Dが、最後に砂場に入り、再びAがグラウンドに出るまでは、遅いながらも又揃って同じスピードで走ります。
-
最初にAが砂場を脱出しグラウンドに出て、スピードを上げます。
砂場に残っている光子たちは、スピードが遅いので、ここでまた列は右に向きを変えます。
このように、媒質の境界(1面、2面)で、光の向きが変わるのです。
■ 光の屈折の本質論
フェルマーの原理
光の屈折についての、より本質的な説を紹介します。
フランスの物理学者、フェルマーが唱えた説で「フェルマーの原理」と呼ばれています。
A地点から、途中の川を渡ってB地点まで行くことを考えます。
その場合の「最短距離」は の直線です。
しかし、川での抵抗、時間的ロスを考えると、 の経路を取った方がB地点に早く着くのではないか、と考えられます。つまり 媒質の抵抗が多い程、その経路を短く取るコースを取った方が合理的です。
「光は、最短距離ではなく最短時間で到着する経路を取る」 これがフェルマーの原理です。
量子としての、光の性質
フェルマーの原理「 光は、最短距離ではなく最短時間で到着する経路を取る」 、これも考えてみるととても不思議な現象です。
一体光は、 「最短時間で到着する経路」を、予めどうして知ってその経路を正しく通るのでしょうか。
実は光に限らず、いわゆる量子の世界、つまり超ミクロの世界では日常の常識では理解不可能な、不思議な現象のてんこ盛りです。
この「フェルマーの原理」にしても「そうなんだからしょうがない」として理解するしかなさそうです。
理解不可能ながらも「理解」する為の一つのヒントがこちらです。
光にとって、と言うか光速度において「時間経過」と言う概念は若しかしたらナンセンスで有るようです。つまり後も先も無く常に「今の瞬間」で有るようです。
してみると、「先のことを予め知る」ことも、光にとっては「今のことを今知る」に過ぎない訳で、当たり前のことだと言えそうです。タイムマシンの考え方に繋がるイメージですね。
■ 屈折の大きさを決める要素
光の屈折の度合いを決定する要因として2つ有ります。やはり上の図を参照しながら見て下さい。
入射角度
次の媒質に入射するときの角度が大きいほど屈折は大きくなります。
媒質に対し垂直(角度0)で入った場合、屈折はしません。
砂場の例で言えば、角度が大きいほどAとDが砂場に入る(或いは出る)タイムラグが大きくなり、列が曲がるのです。全員同時に砂場に入って出た場合は、列が曲がることは有りません。
隣接する媒質間の、屈折率の差
屈折率の差が大きいほど屈折は大きくなります。 この場合大切なのは「差」です。
砂場の例で言えば、グラウンドと砂場での進みにくさの差が大きいほど、その境界で大きく列が曲がります。
■ 光の速度が、媒質によって変わる理由
ではそもそも、なぜ光は通過する媒質間で進む速度が変わるのでしょうか。
我々は、光がガラスに当たって透過するのを見た時、入った光がそのままガラスを通り抜る、と感じ、それをほとんど疑いません。しかし実は入って来た光(光子)と、出て行った光(光子)は、全く違うんですね。ガラスの中では言わば玉突き現象が起きていて、出て行った光は玉突きで押し出された光(光子)なのです。
入った光子と出て行った光子が「全く違う」と言っても、人間の一人ひとりがそれぞれ違うと言う意味での「全く違う」と言う意味では有りません。
入った光子がそのまま素通りするのでは無い、と言う意味です。光子は(光子に限りません、原子同士、陽子同士、電子同士、など全て)は、それぞれお互いに違いは全く有りません。
光は電磁波の一種で、イコール エネルギーです。
真空中を通ってきた、例えば太陽光線がガラスに当たったとします。太陽光線の光子はガラスを構成する原子と衝突し、光子はそのエネルギーをガラスの中の原子、特に電子に与え、光子は消滅します(電磁気現象の内、可視光線領域の振る舞いは、原子の中の、主に電子がつかさどっています)。
エネルギーを貰った電子は、通常より高いエネルギー状態(励起状態、或いは励起する、などと言います)になります。当然のことですね。
電子に限りませんが、高いエネルギー状態は不安定で、常に元の低いエネルギー状態に戻ろうとします。熱湯を放置しておくと、そのうちに室温と同じ温度に下がります。それと同じことです。
励起状態の電子は元の状態に戻ろうとして、貰った分のエネルギー、つまり光子を放出します。 その光子が又次の電子を励起状態にするのです。
この繰り返しで光が進んで行く訳で、媒質の密度が大きいほど衝突回数が多くなり、結果的にスピードが遅くなるのです。
宇宙空間の真空状態では、原子の密度が極端に少ないため、衝突も起こらず、秒速30万キロの光速で走っている訳ですね。
※太陽内部での光伝播
太陽のエネルギー(光)の元は、中心の核で起こっている核融合反応です。4個の水素原子核が1個のヘリウム原子核に変わる核融合反応が、太陽の熱と光の元です。
中心核で生まれたエネルギーが太陽の内部を通過して表面に達し、光として放出されるのですが、中心から表面に達するまでに数百万年から1000万年も掛かるのだそうです。
太陽は非常に大きいし、密度も高いのでその間、光子はあっちにぶつかり、こっちにぶつかり、その都度エネルギーの吸収・放射を繰り返し、結果的にそのような長い時間が掛かるのです。
太陽の半径(つまりは中心から表面までの距離)は、約70万Km弱ですから、真空中なら2秒とちょっとで進む距離です(それにしてもやっぱり大きいですね、太陽は)。
それが数百万年も掛かると言うのですから、その辺の事情は想像が付かないことです。
今、我々が見ている太陽の光は、若しかしたら1000万年前、つまり未だヒトが地球上に現われていない時代に、太陽の中心で作られた光かも知れませんね。
太陽の光と核反応
核分裂反応も含め、核反応の原理を定式化したのが、世界で最も有名な、アインシュタインのあの式、E=mc2です。Eはエネルギー、mは質量、cは光速度です。
この式が表している意味は、エネルギーとは、質量(物質)に光速度の2乗を掛けたものに等しいと言うことです。
質量(物質)が消滅する時、世界に於ける最高速である光速度の2乗を掛けた、膨大なエネルギーが生じます。「質量のエネルギーへの転化」ですが、その逆の反応「エネルギーの質量への転化」も頻繁に起こっています。
つまりアインシュタインはこの式で、それぞれ違う物だとされてきた「物質(質量)」と「エネルギー」が、実は同じもの、等価だと定式化したのです。
核反応の理解が得られるまで、 実は太陽が出すエネルギーの源について、どうにも説明が付かなかったのです。それまで光とエネルギーの元としては化学反応、つまり燃焼しか想定できていなかったのです。その化学反応で計算した時、とっくに太陽は燃料を使い果たして消滅している筈だったからです。
核反応には「核分裂反応」と「核融合反応」とが有ります。太陽での核反応は、核融合反応です。
太陽内部では、4つの水素(H)原子核が融合して1つのヘリウム(He)原子核になる核融合反応が起こっていますが、その際0.7%の質量が消滅します。この失われた質量が、膨大なエネルギーに変換されるのです。
太陽は毎秒5.64×1011kg(5億6400トン)の水素を反応させて、全体で約4×1026J・s-1のエネルギーを出しているのですが、これは広島型原爆5兆個分のエネルギーに相当するそうです。そのうち地球が受け取っているエネルギーは約20億分の1だとのこと。
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