減法混色とCMYK


加法混色については理解できても、減法混色についてハッキリしたイメージが持てない人が多いようです。
色光を足してゆくとだんだん明るくなって、最後明るさの飽和状態である白になる、と言う加法混色は素直に理解できる。しかし「減らしながら色を混ぜる」と書く減法混色とは.........?

加法混色は、色光同士の混合が人間の視覚系に反映する現象です。それに対し減法混色は光と物体の相互作用(吸収、透過・反射)が人間の視覚系に反映する現象です。加法混色に比べ関わっている要素が一つ多い訳で、減法混色の理解がややこしくなる原因はこの辺に有るのでしょう。
同時に従来の説明の仕方、図の表示の仕方などにも、減法混色をイメージし難くしている要因が有りそうです。

その辺の事情を念頭に置きながら、減法混色について考えて見ます。


 

 

減法原色と減法混色

■ 減法三原色

スペクトルと減法三原色

genpo3gensyoku_spectre.gif

ここでも「スペクトルとカラー」の復習になりますが、連続的に変化するスペクトルの、それぞれ2/3ずつの領域をまとめると、減法三原色、C(シアン)・M(マゼンタ)・Y(イエロー)が得られます。

これを「減法三原色」、或いは「色の三原色」と言い、それぞれのイニシャルを取って、一般的にはCMYカラー、或いは単にCMYと呼びます。

  • 長波長領域、2/3の混合でY(イエロー
  • 短波長領域、2/3の混合でC(シアン
  • 短・長波長域、1/3づつの混合でM(マゼンタ)。 マゼンタだけは、スペクトルに含まれていないカラーです。

加法三原色は、スペクトル領域の1/3、減法三原色は2/3づつを含んでいます。したがって、色光自体は減法三原色の方が加法三原色の2倍明るいことになります。
そして加法三原色と減法三原色は、お互い補色の関係です。

減法三原色(色の三原色)とCMY、及びCMYK

なお絵の具など色材での色再現に、シアン・マゼンタ・イエローを三原色と体系付けたのはオーロンと言う人だそうです(1868)。
それまでは、レッド・イエロー・ブルーを基本にしていたのですが、この三色での色再現は手間がかかり面倒だったようです。

なお色の三原色の、身近で典型的な活用例はカラー印刷ですが、印刷のインクはCMYだけでなくK(ブラック)を加えて、通常CMYKとなっています。

■ 減法混色

加法混色は、色光同士の混合の問題を扱います。
それに対し減法混色は、光が物質を透過したり、物質表面で反射する時に関係してくる現象です。つまり「光と物質の相互作用」を扱います。

物体色(反射光、透過光)

apple_wine_small.jpg

光源と物体色」でも触れたことですが簡単に再掲しておきます。
光源が物体に当たった時、その一部が物体表面で吸収され、残りが透過或いは反射されます。その透過・反射された波長成分が人間の視覚系に作用し、物体色として認識されます。

補色の吸収(減色)

物体に吸収された光(スペクトル)は、物体色の補色です。 と言うか、補色部分が吸収されるから、物体色が残る、と言うことですけど。

反射・透過光と、吸収された補色光は、相補的です。
物体色=入射光-補色 の関係になります。

減法混色とは光のスペクトル成分から、吸収させる補色部分を調整し、結果的に意図する色を残すことを考える方法だと言えるかも知れません。

吸収された光は熱になる

物体に吸収された波長成分は通常、熱エネルギーに転化します。太陽光が白い物に当たった場合、スペクトル全域に渡って反射され、逆に黒い物は全域に渡って吸収されます。
従って黒い物ほど太陽の熱を吸収し易い訳です。夏に白い服装が多いのはそう言った理由が有ります。

減法混色のメカニズム

光が物体に当たった際に見せる、透過と反射の現象を通し、減法混色のメカニズムを見てゆきます。

■ 透過と減法混色

カラーフィルタ等、透明な物体を光が透過する際、物体は補色成分を吸収し、残りの部分を「物体色」として透過します。

フィルタは補色を吸収する

cmy_.jpg

光源から出た光が、灰色フィルターを通り抜ける時、そのスベクトルの一部がフィルタにより吸収され、投影される光はその分だけ暗くなる。(右図)

灰色(グレー)は各波長が平均的に混合している色。
グレーフィルタは、スペクトル領域を平均的に満遍なく吸収する。

フィルタの濃度を0~100%に調整することで、様々な濃度の「グレースケール」が得られる

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色光を黄色フィルタに通すと、短波長光線(青スペクトルが)吸収され中間及び長波長光線が透過、混合されて黄色が投影される(左図)。

簡単に言えば、黄色フィルタがその補色である青を吸収したものである。

さらにシアンフィルタを通すと、その補色である赤を吸収し、緑だけが透過、投影される(右図)

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シアンフィルタの代わりにマゼンタフィルタを通すと、その補色の緑が吸収され、赤が透過、投影される(左図)。

シアンとマゼンタフィルタを通すと、青(すみれ青)が透過、投影される(右図)

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フィルタ濃度と減法混色

フィルタの濃度とその組み合わせを様々に変えることで、原理的には全ての色を作り出すことができる。

左右両図のように、C、M、Y 三色のフィルタ濃度を、それぞれ0~100㌫の階調で変化させることにより、白~黒、及び全てのカラーを再現できることになる。

右図では、スペクトル領域全てがフィルタに吸収され、光は透過しない

cmy_7.jpg

※ 減法三原色とCMY

ところで、どうして減法三原色は、RGBでなくCMYなのでしょうか。
減法混色では、その色以外の全てのスペクトル領域を補色として吸収してしまいます。
RGBを使い、減法混色をしたら(つまりRGBのフィルタを使ったら)、スペクトル領域3分の2が補色として吸収されてしまうので、RGB2色の混合だけで、カラーレベル0(黒)になってしまいます。中間のカラーを作り出せないことになります。


 


 

■ 反射と減法混色

透明でない物体に光が当たった時、物体の表面で補色成分が吸収され、残りの部分が「物体色」として反射されます。

補色の吸収と反射光

genpo3gensyoku.jpg

右図は、白色光(RGB)がCMYのインクや絵の具等の色材に当たっている場合です。
CMYはその補色、RGBの1色を吸収(減色)し、残りの2色(波長域)が反射されます。
反射光は合成されて (この反応は加法混色です)、C.M.Yが生成されます。

■ フィルタ(透過)と色材(反射)

透過光も反射光も、人間の視覚系に反映されてカラーとして認識されます。
フィルタを通しての補色の減色も、インク、絵の具など色材による、補色の減色も、人間の眼にとって、実は同じことです(下図)。

cmyk_1.5.gif

フィルタによる減色

光源からの白色光は、イエローフィルタで、補色のブルーが減色され、黄色が透過し、その投影面が眼に入る(左図)。

インクによる減色

白色光がイエローインクに当たり、補色のブルーが減色され、その反射光が眼に入る(右図)。

我々の眼にとって左図と右図は、全く等価です。

cmyk_2.jpg

 

減法混色の実際

減法混色の理屈としては上記のような理解で良いと思います。
減法混色は映画やスライド投影、インクや染色剤、絵の具の調合などに幅広く応用されています。特に印刷の現場では減法混色-CMYKの世界だと言って良いでしょう。
しかし理屈は理屈として、実際の活用場面では色々な事情が絡んでいるようです。

■ 減法混色の活用

透過光での減法混色

透過光による減法混色の具体例としては、映画やカラースライドの投影、或いはバックライトで表示されているウインドウディスプレー等でしょう。
カラーフィルムに、元々全てのカラー要素が用意されていて、あのようなフルカラーが再現されている訳では有りません。 そんなことは不可能です。
基本的にはフィルムにC・M・Y 三色の層が有り、その濃度の組み合わせでフルカラーの透過光がスクリーンに投影されます。 透過されなかった光(補色成分)はフィルターであるフィルムに吸収され、熱となります。 昔の映画館ではフィルムが良く焼き切れたものです。

舞台照明のカクテル光線の照射混合は加法混色の応用ですが、その光源は通常カラーフィルタでR・G・B の色光を作っています。このこと自体は減法混色です。

反射光での減法混色

上右図のような、反射光による減法混色の具体例としては、何と言ってもカラー印刷でのインクの混合です。或いは染色、絵の具の混合など。

色材による減法混色

brush_mix.gif

  1. シアン、マゼンタ、イエロー が減法混色の一次色になります。
    当たった白色光は、それぞれの補色が吸収されて、結果的にC・M・Yが残ります。
  2. 一次色の2色が混合されたとき、双方の補色が吸収され、R・G・B の二次色が生成されます。
  3. 3色全てが混合されたとき、光は全て吸収され、三次色としての黒になります。
  4. 三原色の混合比を様々に調整することで、理論的には全ての色の再現が出来ます。

※ このように、限られた色材の混合で多くの色を作り出すことが出来る、その基礎が減法原色であり減法混色の考え方です。
印刷の現場でも、全ての色を予め用意しておくことは困難だし、色数が少ない方が、管理が楽だと言えるでしょう。

※ Column
3gensyoku_heiti_yoko_s.gif減法混色の理屈が分かりにくい要因として、私は関連書籍の図の描き方もその一つではないか、と思っています。右図は良く見られる「加法混色」と「減法混色」の模式図です。
加法混色はこれでいいでしょう。R、G、Bそれぞれのスポット光が当たって混合される状況をそのまま表現しています。素直にイメージできます。
しかし減法混色は事情が違います。C、M、Yのスポット光による現象では有りません。それを加法混色と同じような図で表現しているところに、混乱の原因があると思うのです。

減法混色は、インク、絵の具など色材の混合に関する問題です。従って本来は上図色材混合のように表現されていればイメージし易いのでしょう。
マっ、しかし便宜上右図のように表現されるのも止むを得ないことで、この講座でもそのようにします。しかし考え方としては上図でイメージして下さい。

減法三原色の混合による、純色の生成

マゼンタとイエローの混合割合によって、その間の様々な純色を作ることができます。 genpo_konsyok_paint1.gif
同じようにイエローとシアン genpo_konsyok_paint2.gif
シアンとマゼンタの間でも、混合割合によって様々な純色を作ることができます。 genpo_konsyok_paint3.gif

 

純色とグレーとの混色

さらに純色と、グレー(黒から白までのグレースケール)との混合で、純色以外の様々なカラーを作ることができます。
グレースケールも濃度を揃えたCMY三色の混合で出来るので、原理的には減法三原色の混合だけで、全てのカラー再現が可能だと言うことです。

印刷の現場ではCMYだけでなくK(ブラック)を使うことは前述しました。
なお白インクと言うのは特殊な場合以外には使いません。白の表現は用紙の面をそのまま使います。つまりインクが乗っていない場合、そこに用紙の地である白が表現される訳です。
用紙の色が他の色であった場合、当然その色になります。

※ スペクトルに無い色、マゼンタ

genpo_konsyok_paint_ling.gif

マゼンタと言う色はスペクトルに含まれていません。 短波長域のブルー光と長波長域のレッド光をそれぞれ同じ割合で混合することで得られます。

本来、スペクトルは線形で帯状をなしています。短波長ブルーと、長波長レッドの混合により、スペクトルに無いマゼンタを作ることで、そのマゼンタを接点とした連続的なカラーの環を作ることができます。

オストワルト、或いはマンセルなどの表色系における、色相環はそう言う形でできています。

減法混色の方法

色材での減法混色を起こさせる方法は、幾つか有ります。

  1. 色材の混合
    上図のように、インクや絵の具を混ぜ合わせる方法です。混ぜ合わせるたびに吸収される補色部分が増えて行きます。
    印刷の現場では、4色の混合だけで表現できない色を再現する為、何種類かのインクを練り合わせ、新しい色(特色)を作り出すことがあります。
    インクを練り合わせて色再現することを「調肉」と言うそうです。
  2. 色材の重ね合わせ
    プロセス印刷での、は半透明なプロセスインクを、重ねて配置する場合が有ります(アミ点の重ね合わせ)。インクジェットプリンタでは、重ね打ちをします。 重ねられたインク同士で減法混色が行われます(この現象は透過による減法混色)。
    水彩絵の具でも、絵の具を重ね塗りすることで減法混色されます。
  3. 色材の厚さを調節
    グラビア印刷などではインクの厚みを変えることで、色の濃淡を表現します。

減法混色の限界

既述したように、CMYの減法混色で、或いはここにKを加えたCMYKだけの混合で、原理的にはあらゆるカラーを再現できる筈ですし、実際に印刷の現場でも相当程度再現しています。
しかし減法混色で再現できるカラー範囲は、RGB加法混色でのそれと比較しても随分狭いものとなっています。ましてスペクトルの波長域と比較して遥かに及びません。

これはインクや絵の具など、色材の技術的な制約も有るでしょう。又、加法混色と減法混色のそれぞれの特性も有ります。
だから、例えばRGBカラーモニタで確認したカラーが、CMYKカラープリンタでそのまま再現出来るとは限りません。
その辺の事情は次の「減法混色と印刷」でも、少し詳しく述べてみます。


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